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いるいな・3

「第三問 お願い、変わらないで by雪子」

天翼高校校門前・・・PM3:50
イサム君・・・何もされなかったみたいだけど・・・なんだろう、ずっと黙ってる。不用意に踏み込むと危ないのに・・・。イサム君、もしかして・・・話せたのかな?
と、考えているうちに、イサム君が歩を止めた。私達はどうしたのだろうと振り返る。
「ん・・・・おい、イサム?・・・昼、何も食わなかったから、具合でも悪いのか?」
「じゃぁどこかファミレスでも寄っていこうか・・・。」
「いや、そうじゃねぇ・・・そうじゃねぇよ。・・・ちょっとな、気になって・・・。」
イサム君・・・あの子のこと・・・わかってるんだ。もうこの世にいないっていうことも、それ以外の何かも・・・。
ヂリヂリ・・・・・
これは・・・旧校舎?見える・・・旧校舎の・・・ここは・・・準備室?古くて使われなくなった机がたくさん・・・そうか、あの子の上履きに『机の中』って・・・。
でも・・・どこの準備室だろう。弱っててわからない・・・。
「おい、イサム・・・行くぞ。」
涼君がイサム君の腕を引く。
「悪ぃ・・・先、帰ってくれねぇか。俺ちょっと行くトコがあってよぉ・・・。」
イサム君・・・行くつもりなの・・・?
「だ、だめよイサム君!もう日が暮れるわ!夜にあんな所に行くなんて危険すぎる!」
「ユ、ユッキー・・・お前、なんで・・・。」
ビンゴ・・・。みんなが不思議そうな目で私を見てる。・・・日が無くなったら、悪い霊も目を覚ますかもしれない・・・そんな所にイサム君を行かせるわけには・・・。
「悪い・・・ユッキー。俺、俺どうしても行きてぇんだ!あの子がかわいそうでよ・・・。同じクラスのみんなに忘れられたんだぜ!?誰も花を供えてくれない・・・あんな寒いトコで・・・一人で・・・・・!!」
「ん・・・・ちょっと待て、話が見えない。お前まさか、あの上履きの主に会いに行く・・・って言ってるんじゃないだろうな。」
まずい・・・今涼君が何かキツイこと言っちゃったら、イサム君きっと一人で行っちゃう・・・。
それだけはなんとしても避けたい。もし行くにしても、私も一緒じゃないと・・・。
「・・・・ああ、そうだよ涼。」
「・・・・お前、正気か?あの上履きには『死ぬ』って書いてあったんだぞ。本当に死んだなら当然だが、生きていても、もうあそこにはいないだろう。あの上履き、相当古い型だぞ。」
「・・・残念ながら生きてねぇよ。マユミちゃんはまだあそこにいるんだ。」
「ふぅ・・・で?お前は花でも供えてやろうって・・・そう言いたいのか?馬鹿げてる。それで何が変わる。おまけに持ち主をちゃん付けか・・・頭でも打ったんじゃないのか。」
やっばい・・・やっばいよ・・・・。
「てめぇ涼・・・何にも知らねぇ癖に・・・偉そうなこと言ってんじゃねぇよ!」
ヂリヂリ・・・
ごめんね、クラタマユミさん。イサム君、あなたのこと嫌いになったんじゃないよ。今、彼は戦ってるの。もう少し・・・待ってあげて。
「あぁ、何にも知らないさ。お前の言っていることは支離滅裂、意味不明だ。これからお前がしようとしていることも、無意味かつ時間の無駄だ。頭を冷やすんだな。」
「こ・・・この野郎っ!!!!」
バキィッ!!
「ぐっ・・・!!!暴力か・・・気持ちを言葉にできないのか?もしくは、自分でも無意味だと解っているんじゃないのか?だからそれを言葉にできず、とりあえず自分の立場を維持しようと拳を振るった。」
「うるせぇ・・・うるせぇよ!!」
「イサム君!落ち着いてよ!友達を殴っちゃダメだよ!」
マー君がイサム君の腕を掴んで必死に止めている。殴られた涼君は冷静だ。慣れているんだろうか・・・。
「くっ・・・・もういい!俺は行く!・・・じゃぁな!」
イサム君が行ってしまう。どうしよう・・・涼君は怪我してる。涼君を家まで送りたい・・・でもイサム君を一人で行かせるわけにはいかない・・・どうしよう・・・どうしよう・・・。
ヂリヂリヂリヂリヂリヂリ・・・・
『・・・イサム・・・・先輩・・・・・・・寂しいよ・・・・・サビシイヨ・・・・』
ヂリヂリッ!!!!!!!
「っつぅ!!!!」
胸が・・・胸が痛い・・・・!!裂けちゃいそう・・・・!!
「ど、どうしたの神村さん!!?大丈夫!?」
「あ、ありがとうマー君・・・大丈夫だよ・・・。」
い、いけない・・・!あの子・・・変わっちゃう・・・!!ダメイサム君・・・今のあの子に・・・近づいちゃいけない!引き込まれちゃう!あなたの優しさが・・・あの子を・・・!
「・・・・・イサム君が心配だわ。私も行く。」
「ん・・・・神村・・・?」
ごめんね涼君・・・。マー君に介抱してもらって・・・・・
「ぼ、僕も行くよ!イサム君、目が遠くを見てた・・・僕達じゃない誰かを・・・。僕にできることなんて無いかもしれないけど・・・行くよ!」
・・・・マー君・・・あなたの優しさ、今ちょっとだけ恨むわ。
ほんっとうにごめんね、涼君。




鳴海家・・・PM4:30
「・・・ただい・・・・ま?」
「あっおかえりぃ〜!おやつ、ドーナツだけど冷蔵庫に入ってるぞ〜。」
・・・・姉貴、仕事してんのか?伶の姉貴は相変わらず家にいた。ソファーに寝転がり、事件資料片手にビールを飲んでいる。
「・・・姉貴、仕事・・・・」
「あぁっ!あんたどうしたのその傷!」
資料を放り投げ、俺の口の傷を触りだす姉貴。・・・・痛いって。
「・・・・転んだ。」
バシィッ!
・・・頭を叩かれた。一応けが人なのだが。
「馬鹿たれぃ!そんな嘘通じるかっての!私を誰だと思ってんの?刑事だよ?これ、殴られた傷じゃないの。誰にやられたの?もしかして学校でイジメられてる?姉ちゃんがぶっ飛ばしてやるぞ?」
・・・・・・・・服着ろよ。ホント、姉貴の弟が俺でよかった。思春期真っ盛りの高校二年生にこれはキツイだろうな。まぁ、俺は平気だが。
「ん・・・・別に、大したことじゃない。ちょっとイサムと・・・。」
「あぁ〜・・・なんだイサムかぁ。昔っからだよな〜あんたらって。」
「ん・・・・・・?」
「しょっちゅう喧嘩してたじゃん。その癖喧嘩した晩にはウチ来てたし、あんたらホント不思議コンビ。」
・・・・別にコンビなんて組んでない。今回はあいつがいけないんだ。
「・・・たぶんね、あんたが悪いんだよ、涼。」
そう言い、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。・・・・なんでだよ。
「あんた、ひどい顔してるよ?悲しい・・・後悔してる顔。」
・・・冗談じゃない。後悔?俺が?何に?あいつがいけないんだぞ。あいつが・・・おかしなことを言って、勝手に暴走してるからいけないんだ。
「謝ってきなよ〜。きっとイサムも同じ気持ちだよ。他人のことには気が回るのに、自分のことに関しては不器用だからねぇ、あの子。」
・・・よく知ってるな。
「ん・・・・姉貴、俺がいない間にイサムと何かあったのか?」
頭を自分で叩く姉貴。
「あいや〜・・・口が滑ったかぁ・・・。な、なんでもないよ。あんたが気にするようなことじゃない。」
・・・・・・あぁ、そういうことか。イサムの奴・・・昔っから姉貴のこと好きだったもんな。この様子だともう終わったみたいだけど、よかったな、イサム。
「ん・・・・晩御飯まで寝る・・・。」
「・・・まったく素直じゃないねぇ。誰に似たんだか。」
・・・それは親のセリフじゃぁないのか?姉貴。




天翼高校裏門・・・PM5:30
「ちくしょー遅くなっちまったな。・・・マー坊、お前の父ちゃん相変わらずユッキーのこと好きだな。まさか1時間近く話すとは思わなかったぞ。」
「ご、ごめんねホント。父ちゃんって、制服の女子高生大好きでさぁ。この間なんか、ドライヤー半額で売っちゃったんだよ?」
うわ・・・すごい・・・あ、そういえばお母さん掃除機欲しいって言ってたっけ・・・。
・・・・・あ、私としたことがなんて悪どいことを・・・。
「僕ん家、寄らないほうがよかったかなぁ。」
「馬鹿言え。門の監視カメラ、お前以外に誰か分解できるってんだよ。ほらっ!もっと胸を張れよ、電気屋の息子さんよ!」
そう、マー君は電気屋の一人息子。そのおかげかはわからないけど、マー君は機械類にとっても強い。私の壊れたパソコンもケータイも直してくれた。・・・・簡単に。タダで・・・あ。
「で、でもさ・・・監視カメラって、誰かが見てるんじゃないの?機能止めたらバレるよ?」
「大丈夫、ここの学校のカメラ、録画してるだけだから。」
「え、ユッキーなんでそんなこと知ってんの?」
「私、1年の頃放送委員会だったからね。放送室の隣にカメラ室があるんだけど、誰も入れないし、ただ録画用のテープが回ってるだけだったよ。」
「じゃぁ大丈夫だね。・・・よし、やるよ!」
「頼むぜヤン坊マー坊!!」
「誰だよそのもう一人!!」




鳴海家、涼の部屋・・・PM5:30
「ん・・・・・もう読んじゃった。」
何も本を持ってこなかったので、仕方なく机に置いてあった広辞苑を読んだ。普通・・・暇だからといって読むものではない。何かしていないと落ち着かないからだ。
「・・・イサム、大丈夫かな。・・・神村もマー坊も。」
昼入った時、床にたくさん穴が開いていた。あんな老朽化した所に、こんな時間に入ったら・・・。・・・・・いや、嘘だ。俺はそんなことを心配しているんじゃない。俺は、あの上履きが気になっている。
「ん・・・・・・そうだ。」
枕元に放り投げておいたノートパソコンを開く。電源は付けっぱなしだった。・・・ごめん姉貴。
カチャッ・・・カチャッ・・・
日本の資料・・・天翼高校で起きた事件・・・・これはいい、もう何度も読んだ。これよりもっと過去のことだ。自殺した女生徒・・・・・・・あった。
「ん・・・・・昭和19○○年・・・俺もイサムも生まれてないじゃないか。」
・・・・クラタマユミ。屋上からの投身自殺。なぜ自殺したのか、誰にも解らなかった事件・・・か。
「なるほど、よくある。・・・もみ消しだな。・・・・くだらない。」
ん・・・・・?その数週間後、クラタマユミと同じクラスの生徒数名が発狂、登校拒否。同月、屋上の手すりに寄りかかっていた、クラスメイト生徒数名が落下・・・死亡。
「・・・・・・・事故・・・・だよな・・・。」
ん・・・・・・・・これは・・・・・。
「教材一新のため、机等を運び出そうとしたクラタマユミ担任教師が・・・・・変死?」
・・・・『机』・・・等。
「・・・・・イサム・・・・・・・・・・。」
俺は気がつくと階段を飛び降り、リビングを通って玄関で靴をはいていた。姉貴が何か怒鳴っているが、聞こえない。水槽の横に置いてある鍵入れから、姉貴のバイクのキーを取り出す。
「・・・・・姉貴、バイク借りるよ。」
「ちょ、ちょっと待ちなさい涼!涼〜!!」
もちろん無免許。だが運転はできる。・・・・まぁ気にするな。




天翼高校旧校舎前・・・PM6:00
「・・・入り口、塞がってねぇな。昼間俺がぶっ壊したまんまだ。」
誰も見にこないしね。・・・こんな危ない所。もちろん、色々な意味で。
「ね、ねぇイサム君・・・やっぱり明日にしない?もう真っ暗だよ・・・。」
「あぁ?懐中電灯ならお前が持ってきてくれただろ?」
「それだけじゃ・・・ねぇ、絶対に危ないよ・・・。」
これで今、イサム君が家に帰ったら・・・・きっとあの子・・・終わる。私、さっきと真逆のことを言ってる・・・でも、それが事実。
「じゃぁマー坊、お前とユッキーは帰っていいぞ?母ちゃん父ちゃんが心配するかもしれねぇからな。元々俺一人で来るつもりだったんだ。うらまねぇさ。」
「ううん、私は行くよ。・・・ここ、すっごくヤバイもの。イサム君一人に行かせられない。」
「・・・・ユッキーが言うと、マジこえぇんですけど。」
そう言って豪快に笑うイサム君。・・・ねぇ、本当にわかってる?本当に危ないのよ?
「ぼ、僕も・・・ついてく。電気・・・つけれるかもしれないし。」
そう言って小型のバッテリーやらケーブルやらを取り出すマー君。・・・すごく頼りになる。
「な、なんだよマー坊!真っ暗とか言って、そんなもん持ってきてるじゃねぇか!お前最高だな!」
「でもこんな古い建物・・・ホントに電気つくかわかんないよ。それに僕が真っ暗って言ったのは、周りのことだよ。もうほら、校庭なんか何にも見え・・・・・・・・・・・・・」
校庭に向き直ったマー君が、まるで壊れたかのように止まる。目を見開き、口は開いたまま。私とイサム君もその視線の先を・・・・・・
ヂリヂリ・・・・・
校庭の真ん中。そう、さっきマー君が言ったとおり、本当なら真っ暗で何も見えない。けど、私は見た。おそらくみんなも見たんだろう。
・・・・・・ありえない方向に首の曲がった男の子。学ラン・・・旧校舎の生徒だ。・・・元。
絶句するイサム君とマー坊。私は冷静に、その男の子から何かを聞こう・・・いや、感じ取ろうと集中した。
『・・・あなた、誰?何でそんなところにいるの?何でそんな怪我をしたの?』
『・・・・・・・・・・クラタ・・・・・マユミ・・・・・・。』
『クラタマユミさんに、何をされたの?あの子、飛び降り自殺したのよ?あなたが苦しめたの?』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・。』
・・・いけない、彼らの気分を損ねたら、話は聞けない。ちょっとストレート過ぎたかも。
『えっと・・・私達、これからクラタマユミさんに会いに行くの。』
『・・・や・・・めろ・・・!!』
『どうして?あの子は悪いものなの?そうは見えなかったけれど?』
・・・あえて何も知らないフリをして、話を聞こう。この手の被害霊は、これで大抵・・・
『・・・・・クラタ・・・・あいつは・・・・・何も見えて・・・・・何かが心残り・・・・さびし・・・・・・・誰か・・・・・・・』
『え?よく聞こえないわ。あなたは何を知っているの?教えて!』
『・・・・・・誰か・・・・・ずっと・・・・・・・待って・・・・・・・・・』
そこで交信は終わった。彼が去っていったのだ。辺りを警戒するイサム君達。大丈夫、彼は悪いものじゃない。クラタマユミ・・・自分自身も知らない間に、この地の霊達を縛っているんだ・・・。この地に残る理由・・・・何かがあるのか・・・・。
「イ・・・イサム君・・・・。」
マー君が情けない声をあげる。いや・・・普通の人間の反応・・・だよね。
「・・・・・・入るぞ。あいつが・・・アイツがマッテル。」
イサム・・・・・君?




『いる?いない?』・・・・いるわ。当然でしょう。
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